札幌市の財政を、企業と同じ「発生主義」でつくられた財務書類(統一的な基準・一般会計等)から、市民向けにやさしく整理しました。数字はすべて令和6年度決算(2026年2月公表)に基づきます。
⚠️ これは会計上の数字で、家計や企業とは性質が異なります。たとえば自治体は支出の多くを税収(純資産)でまかなうため、流動負債が流動資産を上回っていても、ただちに資金繰りに問題があるとは限りません(市の資料も同様に注記しています)。金額は概数で、時点により変動します。
① ためてきたもの・借りているもの(貸借対照表=BS)
BSは、ある時点で市が持つ資産と、返さなければならない負債、その差引の純資産を示します。
だれが負担する? ― 世代間のバランス
市は「負債=これからの世代が負担する分」「純資産=いままでの世代が負担した分」と説明しています。いまの割合はこうです。
市民1人あたりにすると
| 資産 | 約151万円 / 人 |
|---|---|
| 負債(借金) | 約83万円 / 人 |
| 純資産 | 約68万円 / 人 |
※人口約196万人で割った概算。
② 1年でいくらかかっている?(行政コスト計算書=PL)
1年間の行政サービスにかかったコスト(純行政コスト)は約9,678億円。現金支出を伴わない減価償却費なども含んだ「本当のコスト」です。財源は税収(約6,058億円)と国・道からの補助金(約3,818億円)でまかなわれています。
毎年の費用(経常費用 約1兆163億円)の中身
移転費用は、市が市民や団体に配るお金。最大は社会保障給付など 約3,943億円で、高齢化とともに増え続けます(→社会保障費の増加)。業務費用は市が自ら使うお金で、人件費 約1,790億円、物件費・減価償却費など 約2,464億円が中心です。
③ 何に投資している?(伸ばす側)
公共施設や道路などの資産形成に使ったお金(投資活動支出)は、1年で約2,637億円。おもな中身は次のとおりです。
- 学校・清掃工場などの老朽化した施設の更新
- 都心(札幌駅・大通)を中心とした再開発
- 施設のバリアフリー化・再エネ/省エネ化、学校への冷房整備
中期計画(アクションプラン2023)では、これらの建設事業費が前回計画から+1,920億円ふくらんでいます。BS上の「持っている資産」も、学校・市営住宅などの事業用資産 約1兆2,328億円と、道路・公園などのインフラ資産 約9,009億円が柱です(→まちづくり戦略ビジョン/産業振興ビジョン)。
④ 気をつけたいこと(抑える側)
これは「サービスを削る」話ではなく、将来世代へのツケと、維持コストの膨張をどう抑えるかという話です。
- 地方債残高 約1兆4,802億円。令和6年度は借入が返済を上回り、残高は増加しました(→市債残高の拡大)。
- 社会保障給付が毎年の費用の最大項目で、今後も増加が見込まれます(→社会保障費の増加)。
- 持っている資産の老朽化と更新のピーク。更新費は自然体で年平均約1,643億円と試算され、長寿命化で約1,148億円への圧縮が目標です(→公共施設・インフラの更新需要)。
⑤ いちばん大事な話 ― 「自由に使えるお金」が痩せていく
「社会保障が増えて、そのぶん投資(=資産や仕事を増やす活動)が減っているのでは?」という不安をよく聞きます。まず結論から言うと、投資は減っていません。でも、別のかたちで危うさは確かに進んでいます。お金の“性質”で見ると、それがはっきりします。
お金の使いみちを「性質」で分けると
市の支出は、金額の大きさだけでなく「減らせるかどうか」で分けて見ると本質がわかります。法律や必要性でほぼ自動的に決まる「義務的経費」(人件費・扶助費=社会保障・借金の返済)と、市が判断で増減できる「投資的経費」、そして「その他」です。
令和5年度・一般会計決算(性質別歳出 1兆2,011億円)より。扶助費(社会保障)だけで約33%=投資的経費(約11%)の3倍です。
誤解その1:「投資は減っていない」
実際の決算を見ると、社会保障(扶助費)も投資(普通建設事業費)も、両方増えています。前年度(令和4→5年度)で扶助費は+4.0%、投資はむしろ+19.6%の増加でした。だから「社会保障を増やすために投資を削った」という因果は成り立ちません。
単位:億円。令和4→5年度・一般会計決算(性質別)。
本当の問題:「硬直化」=手足が縛られていく
では何が問題か。市自身が財政推計でこう認めています。
毎年自由に使えるお金(一般財源)の約90%が、義務的経費や除雪などの準義務的経費で埋まっています。社会保障も借金返済も除雪も「減らせない」ので、新しいことに回せる余地はどんどん狭くなる。これが財政の硬直化です。実際、令和8年度予算でもなお200億円を超える収支不足が生じ、裁量で使える経費の約3割は貯金(基金)の取り崩しで穴埋めしています。
だから、見るべきはこの3つ
「社会保障を減らせ」は乱暴です(障がい福祉・児童福祉などで、削る対象ではなく“人への投資”でもあります)。問うべきはそこではなく——
- 硬直化をどう緩めるか:自由に使えるお金の余地を、少しでも広げられるか。
- 投資を「借金頼み」にしすぎないか:投資は増えても、その多くは市債(借金)で賄われ、負債1.6兆円・将来世代の負担55%に積み上がっています。
- 投資の“質”:その投資は、老朽施設の更新ばかりか、それとも資産や仕事を新しく生むものか。近年の投資増は学校・清掃工場の更新が中心で、「守りの投資」の比重が高いのが実情です(更新と新規を分けた内訳は市が公表していないため、ここは今後の“見える化”を求めたい論点です)。
まとめると——「社会保障 vs 投資」という対立ではありません。本当の危うさは、自由に使えるお金が痩せ、投資は増やせても借金頼みで、しかも守り(更新)中心になりがちという構造です。だからこのサイトでは、削る・削らないの前に「性質」と「質」と「誰が負担するか」を、市民が見える数字にしておきたいと考えています。
出典
- 財務書類(統一的な基準)/札幌市
- 令和6年度決算 一般会計等 財務書類 概要版(PDF/札幌市)
- 令和5年度 決算の概要(性質別歳出/札幌市)
- 札幌市の今後の財政運営について(今後10年間の財政推計・令和8年1月/札幌市)
数値は令和6年度決算(一般会計等)に基づく概数です。四捨五入のため内訳の合計が総額と一致しない場合があります。