市民の所得・貯蓄の低さ ― 21大都市で最下位
世帯年収も貯蓄も21大都市で最下位。要因は世帯構成ではなく所得水準そのもので、「稼げるまち」の現在地を示す。
背景
札幌市は「稼げるまち」を掲げるが、総務省の令和6年全国家計構造調査(2024年)で、1世帯当たりの年間収入も金融資産残高も、政令指定都市20市+東京都区部の「21大都市」で最下位となった。世帯収入は世帯構成(単身・高齢世帯の多さ)にも左右されるため、令和2年国勢調査の平均世帯人員・高齢化率と並べて、低さの要因を切り分ける。
主要データ
| 年間収入・総世帯 | 475.3万円(21大都市中21位・最下位/全国593.7万円) |
|---|---|
| 年間収入・勤労者世帯 | 544.8万円(21位・最下位/1位千葉824.7万円) |
| 金融資産残高(貯蓄) | 966.6万円(21位・唯一1,000万円未満/1位横浜2,169.7万円) |
| 純金融資産(貯蓄−負債) | 689.4万円(20位) |
| 金融負債残高 | 277.2万円(最少・唯一300万円未満) |
| 1か月の消費支出 | 22.6万円(下から2番目) |
| 平均世帯人員 | 2.04人(21都市中5番目に小さい) |
| 高齢化率 | 24.9%(14位=むしろ若い方) |
事実
- 令和6年全国家計構造調査で、1世帯当たり年間収入(総世帯)は札幌市が475万3千円で21大都市中最下位。勤労者世帯でみても544万8千円で最下位となっている(全国平均は総世帯593万7千円)。
- 1世帯当たり金融資産残高(貯蓄現在高)は966万6千円で、21大都市中で唯一1,000万円を下回り最下位。トップの横浜市(2,169万7千円)とは約1,203万円の差がある。
- 金融負債残高は277万2千円で最も少なく(唯一300万円未満)、純金融資産(貯蓄−負債)は689万4千円で20位、1か月の消費支出も22.6万円で下から2番目と、所得・貯蓄・資産・消費のほぼ全指標が下位に並ぶ。
- 「単身・高齢世帯が多いから低い」という見方は、データでは支持されない。令和2年国勢調査で札幌の平均世帯人員は2.04人(21都市中5番目に小さい)だが、世帯が最も小さい東京都区部・大阪市は年収が上位で、世帯年収と世帯の小ささの相関はほぼゼロ(−0.09)である。
- 札幌の高齢化率は24.9%で21都市中14位と、むしろ若い方に位置する(北九州31.8%、静岡30.7%など、札幌より高齢でも年収が高い都市が多い)。
- 世帯構成から予測される札幌の年間収入は約591万円だが、実績は475万円で、予測より約116万円低い「負の外れ値」。世帯構成では説明できず、要因は所得(賃金)水準そのものにある。
21大都市 総合比較(世帯年収・金融資産・世帯構成)
| 順位 | 都市 | 世帯年収・総世帯(万円) | 金融資産残高(万円) | 平均世帯人員(人) | 高齢化率(%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 東京都区部 | 709.9 | 1,817.7 | 1.87 | 19.0 |
| 2 | 横浜市 | 684.8 | 2,169.7 | 2.15 | 22.5 |
| 3 | さいたま市 | 665.9 | 1,538.8 | 2.27 | 21.2 |
| 4 | 千葉市 | 655.6 | 1,931.2 | 2.18 | 24.4 |
| 5 | 名古屋市 | 646.1 | 1,946.1 | 2.08 | 25.4 |
| 6 | 川崎市 | 642.1 | 1,471.4 | 2.06 | 17.9 |
| 7 | 神戸市 | 624.5 | 2,023.6 | 2.08 | 29.2 |
| 8 | 相模原市 | 618.7 | 1,312.0 | 2.18 | 26.3 |
| 9 | 浜松市 | 603.2 | 1,763.2 | 2.47 | 28.3 |
| 10 | 仙台市 | 601.9 | 1,221.8 | 2.09 | 21.7 |
| 11 | 岡山市 | 589.7 | 1,607.3 | 2.21 | 26.4 |
| 12 | 静岡市 | 566.5 | 1,528.7 | 2.33 | 30.7 |
| 13 | 大阪市 | 561.3 | 1,563.9 | 1.87 | 25.5 |
| 14 | 広島市 | 553.4 | 1,557.0 | 2.16 | 25.8 |
| 15 | 北九州市 | 545.3 | 1,444.7 | 2.15 | 31.8 |
| 16 | 熊本市 | 542.9 | 1,286.0 | 2.26 | 26.6 |
| 17 | 新潟市 | 542.5 | 1,450.4 | 2.38 | 29.9 |
| 18 | 福岡市 | 530.7 | 1,311.4 | 1.94 | 22.1 |
| 19 | 京都市 | 504.3 | 1,138.1 | 2.01 | 28.3 |
| 20 | 堺市 | 477.2 | 1,272.6 | 2.26 | 28.9 |
| 21 | 札幌市 | 475.3 | 966.6 | 2.04 | 24.9 |
| 参考 | 全国 | 593.7 | 1,527.2 | — | — |
世帯年収・金融資産残高=総務省 令和6年全国家計構造調査(総世帯/令和6年10月末)。平均世帯人員・高齢化率=令和2年国勢調査(大都市比較統計年表 令和6年版)。世帯年収が高い順。札幌市の行を強調。
解釈
単純に、札幌は市民の所得が低い。そしてその低さは所得だけでなく、貯蓄・資産・消費という生活実態のほぼ全指標に及んでいる。世帯構成(単身・高齢)で説明しようとしても、単身の多さと年収は無相関で、札幌は21都市の中では比較的若く、構成を調整してもなお最下位付近に沈む。つまり『単身・高齢だから』ではなく、稼ぐ力=賃金水準そのものが低いという構造的な課題である。これは市が掲げる「稼げるまち」政策の実効性を測る、5年ごとに追える定点指標となる。なお留意点として、本指標は世帯単位のため、学生・単身の若年無業者が多いことや稼ぎ手の人数といった世帯構成の影響を受け得る。ただし学生・無職世帯を除いた「勤労者世帯」でみても札幌は最下位で、世帯人員の少なさを調整してもなお低いため、構成要因だけでは説明できない。1人当たりの賃金水準そのものは、賃金構造基本統計調査など個人単位のデータで別途確認する必要がある。
提案
- 賃金の高い産業(IT・食の高付加価値化・ヘルスケア等)への構造転換で、勤労者世帯の所得の底上げを図る(若者の道外流出対策と一体で進める)。
- 「稼げるまち」政策のKPIとして、世帯年収・金融資産・勤労者所得を5年ごとの全国家計構造調査で定点観測し、目標と実績を突き合わせる。
- 所得の低さと物価・住居費・除排雪等の生活コストを合わせた「可処分所得」の視点で、暮らしやすさを評価する。
検討体制・メンバー
札幌市経済観光局を中心に、産業政策・労働経済の専門家、地元経済界、賃金の高い成長産業(IT・食・ヘルスケア)の担い手、若年層・子育て世代の代表を交え、賃金水準の底上げを産業振興ビジョンの成果指標と結びつけて議論するのが望ましい。
AIノート
AIの貢献度は中。統計データの継続的なモニタリングや、産業別の賃金・生産性分析、他都市とのベンチマークに役立つ。賃金水準の引き上げそのものは産業構造と投資の問題で、AIは現状把握と政策効果の検証を支える。